大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)1852号 判決

被告人 R・W・ハビランド 外一名

〔抄 録〕

次に被告人リチヤードWハビランドに関する本件控訴の理由の有無につき審究するに、同人に関する控訴趣意の要旨は、原審の同被告人に対する量刑は重きに過ぎるものである。同被告人がもしその出身州において本件事案につき裁判を受けるとすれば執行猶予の裁判を受けることも優に可能である。外国にあるアメリカ軍隊がその国の裁判所において裁判を受け苛酷な取扱を受けることについて米国の輿論は強い関心を示している。アメリカ軍人に対する日本の裁判管轄権は平和条約に由来するものであり、右条約は日本の裁判所に対し日本の刑法における刑の短期及び執行猶予に関する限界を超越する権能を国際礼譲の名において与えるものである。

本件における原審の宣告刑は地方的標準と比較してさえ重いと思われるのみならず、右宣告刑は同被告人の本国の人々より見るときは疑もなく厳しく非情なものである。裁判所は本件が宥恕すべき事情が多く、実刑を宣告することが余りにも苛酷であると認めるならば、国の最高法規たる条約法の下において公平な刑を科すると云う裁判所の義務は、国内法に従つて苛酷な刑を科する義務よりも優先するとの基礎によつて、日本の刑法の制約を超えて執行猶予の宣告をすべきであるというにある。

思うに、昭和二十七年四月二十八日平和条約(昭和二七年条約第五号日本国との平和条約以下平和条約。と称する)の発効により日本国は米合衆国との間に完全な主権を回復し、同日発効した日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(以下日米行政協定と称する)が昭和二八年条約第二二号により改正された後は日本国は合衆国軍隊の構成員が日本国領域内で犯す罪で日本国の法令により罰することができるものは同協定一七条3項(a)号所定の罪を除き、これに対し裁判権を行使する第一次の権利を有するものであつて、本件犯罪がこれに該当するものであることは疑のないところである。そして裁判所は日本国憲法の定めるところにより、憲法及び法律に従つて裁判権を行使するものであつて、刑法第一条は「本法ハ何人ヲ問ハス日本国内ニ於テ罪ヲ犯シタル者ニ之ヲ適用ス」と定めているのであるから、右被告人の本件犯行に対し日本の裁判権が行使される以上、刑法の定めるところによりその刑責を定めるべきことは当然といわなければならない。所論のように、平和条約が国際礼譲の名において日本の裁判所に日本の刑法における刑の短期及び執行猶予に関する限界を超越する権能を与えたものと解する根拠はなく、また所論のような国際礼譲が国際法規として確立されておるものとは認められない。従つて本件に対しては日本国の刑法を適用して処断すべきものであるから、所論のように刑法の規定を超越して裁判をすべきであるとの主張はこれを採用することができない。

以上の観点の下において本件事案に対する原審の量刑の当否につき審究する。所論により本件記録を調査し並びに当審における事実の取調の結果に徴し本件に関する諸般の情状につき考量するに、原判決が証拠によつて認めた右被告人の本件犯行はそれ自体著しく社会の公安を害するものであつて、これを軽視するを得ないものであるが同被告人の年齢、性格、環境本件犯行の動機態様、犯行後の財産的損害の弁償等において所論のように幾多酌量すべき情況があるものと認められ被害者菊池利雄もまた被告人等に対し寛大な処分を求めていること等を総合考量するときは、原審の同被告人に対する量刑はいささか重きに過ぎるものと認められるから、この点の論旨は理由がある。

註 被告人に対する原判決の量刑は、懲役四年以上六年以下、当審の量刑は酌量減軽の上懲役三年六月(被告人は当審で審理中成年に達す)

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